スタッフ座談会
with 二階堂方舟 & 森幸光 & 小津葉郎太
この企画では、長年にわたって高橋監督と共に映画制作に携わってきた“戦友”である三人のスタッフに、本作『キラークイーン/Beyond School』について語っていただきました。
この企画では、長年にわたって高橋監督と共に映画制作に携わってきた“戦友”である三人のスタッフに、本作『キラークイーン/Beyond School』について語っていただきました。
にかいどう はこぶね
神奈川県川崎市出身。映画ファン。
もり ゆきみつ
映画監督(21ST CENTURY SCHIZOID MOVIE MAKER)深淵から愛を込めて(カナザワ映画祭)透明な週末(カナザワ映画祭)(ハンブルク日本映画祭)エクソダス(映文連アワード)スタジオ深淵 ビヨンド7運営参加 普段は普通のサラリーマン!
おず はろた
メタルマスター・フィルムズでプロデューサーとして活動する一方で、フォトグラファーとしても実績を重ねている。
二階堂:めちゃくちゃ大変な思いをしました。まず、撮影の前日に「明日、血のりが三リットル必要になった」って言われたんで徹夜でつくりました。そのまま徹夜状態で車を運転してみんなをロケ地に連れて行ったんです。
森:ハイエース二台しかなかったからね(笑)
バロ:車関係のトラブルはつきものですよね。スタッフの規模が増えて、あんなにロケ地を転々としているのに、そもそもこのチームに運転できる人が全然いないっていう。
二階堂:そして僕、一日がけの撮影が終わっていったん東京に戻るわけです。もう夜中ですよ。このときまだ一睡もしてません。演者さんやスタッフの終電が超ギリギリなので焦って車を飛ばしてました。そしたら急に……バロさんから電話がかかってきたんです。
バロ:あ……(察し)
二階堂:「スタッフの財布がない」って。
森:(笑)
二階堂:「ないってなんだよ」って思いながら車を探したら、財布あったんです。ありましたよ。でもそのとき精神的にも体力的にも追い詰められていたんで「いっそ見つからなかったことにしようかな」って葛藤しました。
二階堂:東京駅から引き返して、財布を届けるためにバロさんの家に向かいました。1時間かけて……。
バロ:(笑)
森:(笑)
二階堂:もうこの時点で色々詰んでいまして、まず演者・スタッフさんの終電はすっかりなくなっていました。なので、財布を届けたあと、彼らを家まで送り、渋谷へ引き返しました。
二階堂:はい。そして驚いてください、僕はこのあと、寝ないで神奈川に戻って仕事をして、夜にはまた東京に行って小道具を運搬しました。このとき夜中の3時でした。
バロ:完全に二徹ですね(笑)
森:つらすぎる(笑)
二階堂:仕事のあと、自分がどうやって東京に行ったのか記憶ないんですよ……。
森:僕は二階堂さんとちがって、めちゃ平和でした。強いていうなら、血のりで車のなかが大変なことになって、一生懸命に掃除したことかな。大変なんだなこれが。
森:学校ロケのときは疲れていたので「校長室」で普通に休んでいましたし、わりとリラックスしていましたよ。撮影がないとき、よく演者さんが体育館でバスケやってたのも印象的だったな。山田さんとシュポン君が1on1やってた。あれは絵になっていたなあ。
バロ:森さんが演者さんとコミュニケーションをとってくれて、現場につないでくれていたのがとても頼もしかったです。
二階堂:撮影をやっていると、かならず最終間際で時間が押すんですよね。「これ以上やってたら帰れない」みたいな状況。そんなとき、スタッフの息があって、すごい集中力が発揮されるんですよ。ニューシネマワークショップ組が現場の中心だった。二階堂・森・バロはどちらかというと移動係で、現場は助監督たちが積極的に動いて回してくれました。
森:富津の屋上でとった夕日のシーンもよかったなあ。台本にはなかったが素晴らしいシーンだったね。
二階堂:何気なくとっているように見えたショット、偶発的なショットがけっこうよかったりするんですよね。とくに今作では、そういうショットのほうが印象に残っています。
バロ:森さんの絡みでいうと、一緒にロケの下見にいったときのことを思い出します。現地の人に「AVの撮影じゃないですよね?」と二回くらい確認されましたよね。
森:あった、あった(笑)
バロ:実際その某所では、ゲリラ的なAV撮影があるらしいんですよ。だからめちゃ疑われました。
バロ:まず「誕生日のシーン」ですね。これ撮影一発目のカットだったんですけど、実はロケ地がうちの新居でした。
二階堂:二重の意味でのコケラ落とし(笑)
森:よく考えたらすごいことやってる(笑)
バロ:ほかには、宿泊の思い出が強烈に残っています。
二階堂:いやーあれは本当に語らずにはいられませんね。
森:青春みたいですっごく楽しかった。
バロ:毎回そうなんですけど、高橋監督の映画は予算がすっごくシビアなので、演者やスタッフが泊まる施設が超限られていまして。
二階堂:ロケ弁もコストカットの極みでしたよね(笑)
森:いつも同じ弁当だから、一部からクレームきてました(笑)
二階堂:泊まった施設、漁師の釣り小屋みたいな場所でしたよね。
森:もうめちゃくちゃでしたね(笑) 屋根があればいいか、みたいな。
バロ:みんな雑魚寝でしたよね。よくも悪くも高校生の合宿みたい。ぎゅうぎゅう。
森:色々とギリギリ攻めてましたねえ。
二階堂:そしてあのとき、有志でスーパー銭湯いきましたよね。僕の生涯で一番楽しかった。
バロ:うそつけ(笑)
二階堂:いやほんとに楽しかったんですってば。10人くらいで行きましたよね。
森:帰りのコンビニでアイス食ったよね。
二階堂:ほったて小屋みたいな場所で雑魚寝したり、みんなで風呂に行ったり、なんだか連合赤軍が山にこもっているような気分でした。
バロ:今回の撮影は、高校の理不尽な体育会系くらい体力使ってる極限状態で、みんな兄弟みたいな感覚でした。
森:独特の連帯感ありましたよね。
バロ:自分はもう30代なんだなって、つくづく実感しました。演者さんの最年少は中学生でしたからね。僕・二階堂・高橋監督なんて、あの中ではすでに年長クラスでしたよ。
森:僕はもっと年上だけどね。
二階堂:違いない(笑)
バロ:撮影の合間とか撮影終わりに、みんなで集まってわいわい話すんですけど、本質的な部分に入り込めない感じがしました。若い世代の感覚を共有できないというか。コロナ分断世代の子もいたので、彼らにとっては失われた青春をやっているような気がして、そこに入っちゃいけない空気を感じました。
バロ:そうですね。今回はけっしてラクではないけれども、なぜか心地よい充実感がある撮影でした。そのなかで、みんな様々なかたちで“青春”を見出していたのかもしれません。本作の映像の端々には、言葉にはできないジュブナイル的要素があります。それはけっして意図されたものではありませんでしたが、間違いなく作品の世界観をつくりあげていると思います。
二階堂:こういうことがあるから映画って不思議だなって思います。
二階堂:こういう作り手側の裏エピソードを妄想しながら見ると、楽しみが深くなるかもしれません(笑) けっこう苦労したんです。みんなでつくった映画なので、ぜひ楽しんでください。
森:まず、高橋監督おめでとうございますと言いたいです。とてもうらやましいです。スタッフの人もがんばったかいがあったと思っています。みなさんも、どうぞ最後まで本編を楽しんでいってください。
バロ:いまスチール写真を見返して思うことは、これまでのメタルマスター・フィルムズのなかでもっとも輝いている作品だということです。演出だけでは出せない何かがあります。ぜひご期待ください。
取材・執筆:石山広尚